中小企業の活性化を目指して

画像の説明

「中小企業の活性化を目指して」

『同友会の理念生かす活動へ』

〇地域と共に歩む姿勢を堅持
 日立市在住の森秀男氏がこのほど県中小企業家同友会の筆頭代表理事に就任した。4年前の日立市長選出馬に代表されるようにここ4、5年政治分野に目を向けた活動を展開してきたが、本来の経済人として中小企業の振興、発展に力を入れることになった。
 4年ぶりにカムバックした県同友会筆頭代表理事・森氏に今後の運営方針、抱負、それにバブル経済の崩壊などについて率直に伺ってみた。

〇筆頭代表理事に就任
武弓:7月の総会で筆頭代表理事に選ばれ、4年前よりも責任の重い立場でカムバックされた心境から伺います。

森:今回5人の代表理事が選ばれました。日本ボンコート㈱の青木さん、㈱デベロの立井さん、常陽物産㈱の長岡さん、㈱阿久井工務店の渡辺さんです。皆さん素晴らしいリーダーですが、私が年長という事情もあって筆頭になったと思います。私の場合、県中同協が6年前に設立した際に参画し、代表理事の立場から軌道に乗せるべく私なりに努力し、4年前市長選に出馬するため辞任。以来、一会員として参加してきた。一時、政治活動を重点にした生きざまぶりでしたが、 同友会はもう―つの経済人の立場からは重要な組織であり、中小企業と、そのための関連団体の振興、発展は、私のライフワークの一つでした。したがって、政治活動に一区切りをつけた時点でのカムバックは自分にとって大変意義あるものになりました。

 というのも、日本の産業構造を分析すると、中小企業は製造業で60%、流通業になると実に80%の比率を占め、就労人口も全体の70%で実質的に日本経済は中小企業が支え、推進しているからです。
 加えて、中小企業は地域社会、経済と密着し、そこでの使命、役割は極めて大きく重要視されています。

武弓:中小企業の位置づけ、置かれた立場を明快に説明していただきましたが、中小企業のイメージとしてはどうも経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)さを払拭(ふっしょく)できませんが。

森:確かに多くは零細であり、下請体質で弱くモノの言えない弱者の立場ですが、本来は強者なんですよ。大企業の関係を見ても証券、金融は別にして製造、流通分野では中小企業とは相互依存しているわけで、中小企業の存在はなくては大企業もありえない、といえます。その意味では、中小企業家は自信を持っていいと思います。しかし、もっともっと学ぶ機会を多くして経営努力をしなければならない。そして自立的な近代化と強い経営体質を持って中小企業が活性化されることが、日本経済の健全な発展と真に国民のためになると確信している。

武弓:中小企業の経営者集団として、同友会があり、全国各地で活発に活動していますが、全国及び県内の状況について伺います。

森:現在、37都道府県・3万8000社の経営者が会員になっております。お隣りの千葉県では1800社の会員がおり、3000社以上の県もあります。本県では6年前に設立、現在140社の経営者が加盟、勉強しております。

武弓:同友会の性格や理念は。

森:一部の方に同友会に理解の足りないむきもあり残念です。知れば知るほど魅力的な会です。企業にも目的や経営理念があるのと同様に、同友会も運動の歴史過程で蓄積、培われてきた理念があります。一つには「同友会の三つの目的」、二つには「自主・民主・連帯の精神」、そして「国民や地域と共に歩む中小企業」を目指すことであります。

武弓:具体的な各論を。

森:「三つの目的」としては①よい会社を目指す②よい経営者になろう③よい経営環境を目指す―です。これは、それぞれが密接に関連している。即ち、強い体質を持つ「よい会社」にするには、能力ある全人格的な「よい経営者」になる努力が不可欠ですし、中小企業が繁栄する土壌、つまり、経営努力が正しくむくわれる「よい経営環境」が必要なわけです。

 二つ目の「自主・民主・連帯の精神」は、同友会が今まで発展してきた精神で、人間や人間集団(企業や団体、社会)が大きな目的を実現していくために必要で、私どものいう「自主」というのは二つの意味があります。外からは干渉や支配を受けないのと入退会が自由で、会員の自主性、意思を尊重する選択権を保障していることです。

「民主」も二つの意味合いがあります。全運営の民主化が一つです。往々にして組織団体にはボス的支配の傾向がありますので、その弊害をなくすためには、これを避ける運営方針は大事なんです。それと、民主的なものの見方、考え方を積極的に広める。これは企業や組織の自浄力を強化して発展が約束される大事なこと。最後の「連帯」は会員同土腹を割って裸でのつき合い、本音で知り合い学び合い、助け合っていく。そして外に向けても融合、協力、団結を図ることです。

武弓:格調の高さもさることながら説得力ある理念ですね。「国民や地域と共に歩む中小企業」については。

森:46年のオイルショック時に、同友会会員は便乗値上げはしない旨内外に発表したことに代表されるように、企業活動が理念と実践のうえで反国民的であってはならないわけでして、中小企業は優れた製品やサービスを提供し、国民一人ひとりの暮らしの向上と地域経済の繁栄を保障する社会的使命、役割を担っています。
 したがって、文字通り国民や地域とともに歩む中小企業でなければならない、といえます。こういう高い理念をもって努力しています。

武弓:本県の現状は。

森:今年度は実質的に再スタート台についたところです。現在、水戸、日立、県南西の3支部が設置され、それぞれ活動しています。そこでは会員一人ひとりが先生であり、生徒でもあるわけで、社員わずか2人の会員が年商30億円の会員の先生にもなります。学び方を学ぶなどホンネで語り合える場を目指しています。

武弓:4年ぶりにカムバックし、加えて同友会のリーダーの重責を担ったわけですが、抱負を。

森:運営は「自主・民主・連帯」を大切にして、会員の素晴らしい体験発表を主にした魅力ある支部例会にしていただく。
 そして、同友会の理念を一歩ずつでも具現化できるよう頑張りたい。また、数は力でもあり会員増強にも努めたいと思います。

武弓:会員増強の具体的な目標は。

森:県南西支部が近い将来県南と県西の2支部に発展、独立すると思う。
 来年度には倍増し、担当は近い将来1000社を目指しています。役員とともに精いっぱいそのために努力したい。

〇大型景気の推移

武弓:話題を変えて経済人の立場からいくつか今日的経済事情を伺います。先日、経済企画庁が発表したところによると、今年6月時点で、1960年代後半からスタートし、戦後最長と称されるいざなぎ景気の57ヶ月と並びました。理由はいくつかあると思いますが、どう分析されていますか。

森:足かけ6年も好景気が続いていることは国民生活にとっても結構なことです。いざなぎ景気と今回の大型景気を比較した場合、相違点が明確です。前者の場合、1ドル360円の固定相場制の下での輸出を軸に好況が続いた。これに対し、後者の場合は、内需を軸とした好況といえます。

 しかし、金余り現象は金融緩和を生み、株や地価の高騰を招き、その結果、副作用としてバブル経済を生み出した。経済は一流と国際的評価を受けていた日本経済が実はカネ、モノ主義に立脚した体質が根底にあるのを世界にあらわにした格好で、企業や経営者の倫理観の面から恥ずかしい思いをしています。もちろん、日本経済をマクロ的視点からとらえればごく一部の企業と経営者が引き起こした不祥事にしても、世界の人や国民の目からみると経済界全体の体質と解釈しています。
 これからが問題で、手放しでは喜んでいられないと思います。

武弓:長期好況のしわ寄せがバブル経済を生み、弾けて消滅したといえますが。

森:私は今の経済社会を考えたときチョッピリ疑問がある。経済を車にたとえるなら学科を無視した実地だけの運転をしてきた。今の車はスピードはいくらでも出る。便利だが、過ぎると逆に凶器にもなる。自動車の性能、活用を考えたら学科を学びルールを順守し、安定速度で走らせるのがベスト。長続きもする。
 経済も飽くなき高度成長を求め、競争を激化して、大きいことや豊かなことはいいことだ、と手放しで喜んでいるわけにはいかない。総務庁が今年1月に発表した白書の中で、人間必ずしも科学技術の高度な発達を望んでいない事実が明らかにされているし、むしろこれ以上の科学文明の発展に不安を抱いている国民が74%も存在しているほどだ。経済至上主義は確かに物質文明を豊かにした。
 
 半面、人間性や心の荒廃という社会的病理をまん延させてしまった。
 バブル経済―証券、金融等の不祥事はその延長線にあったといえる。カネ、モノ優先かつ拝金主義の実態、茨城CCの経営者等に見るモラルの欠如は背筋が寒くなる思い。小さくとも同じ経営者として心せねばと考えています。

武弓:モノが豊かになった半面、人間性と心が荒廃、ここ数年来解決されないまま今日を迎えていますが、経営者の立場からみても黙視しておけない状況かと思いますが。

森:深刻な政治、社会、教育問題ですね。いまさら人間論を主張するわけではありませんが、人としてこの世に生を受け、さまざまな家庭、教育環境のなかで一人の人間として成長、人格形成や個性、能力を身につけ、それぞれの置かれた立場のなかで社会参加、活動して歳月を重ねるのが一般的。で、問題は人間が人間としてなんのために生きるか、という基本的な生きざまがスポイル化されているのではないでしょうか。日本の教育制度もそのなかに混在しているともいえます。“企業は人なり"といわれ、人材育成に力を入れなければならない企業ー経営者にとっても重大な関心事であります。全人格的教育が絶対に必要ですし、心に、発想に、そして仕事にゆとりのある人間にならなければ……。
 
 企業でもコンピューターを導入し、オートメ化、ハイテク化を進め、合理的、効率的な労動集約、環境を今後ますます強めることが予測されるだけに、心の問題は一層大切になるでしょう。

〇中小企業の労働事情
武弓:労働事情について伺います。好況が持続しているしわ寄せの一つに中小企業への学卒、高卒など新入社員の就労状況か厳しいようです。人手不足倒産さえ出始めている事態です。労働時間の短縮、企業の利益配分など早急に経営レベルで検討、実施されるべき時期かと思いますが。

森:総論では核家族化の進行で子どもの出生率が著しく低下する一方、例をみない高齢化社会時代の到来によって若年労働力が大幅に滅っている。したがって、就業人ロ、いわゆる人手不足が深刻化している。身近な例を挙げると、大工さんの平均年齢は50歳近く、国勢調査の都度5万人ずつ滅っているのが現状。職人不足の背景には、戦後の教育制度ー学歴偏重主義があり、職業教育を重視していないためだ。価直観の多様化という時代の流れもあるだろうが、労働力の確保は私たちにとっても大問題です。

武弓:優秀な人材確保は企業の存続に不可欠。企業などはどう対応していけばいいのでしょうか。

森:今の若者、必ずしも企業のみを志向していない、むしろ回りがしている。本当の生きがいを求めるように変わってきたと思う。同友会としては共同求人に力を入れ、会員の企業がなんとか優秀な人材を確保できるよう努力しています。
 中小企業サイドでは人間が人間としての生きがいをみつけ、持ってもらえる就労の場であることをもっと強調すべきだ。つまり、大企業に入社し、組織の歯車の一つになるよりも、生きがい、働きがいのある中小企業に身を置き、それが幸せにもつながるんだ、とね。

それには週休2日制をはじめ、労働環境の改善などの受け皿を整備する必要がある。これが今大事なことで、意識を変えながら取り組んでいるが、難しい問題です。

武弓:技能者の養成については。

森:私たちの協同組合では、産・学・官と協力し、企業内訓練を主にして給料を払いながら技術を覚えてもらうシステムを来春から実施しようとしています。
 国や県でも技術者養成は、国家百年の大計としても学校教育と同様に力を入れなくてはと希望しています。

武弓:中同協の運動方針が中小企業の経営者に広く理解され、会員が増えることを期待します。
 長時間ありがとうございました。

コメント


認証コード5184

コメントは管理者の承認後に表示されます。